昔見たイタリアの古い映画「道」。
内容は忘れましたが、主人公と旅をしている女性が海を眺めるのが好きだったことをよく覚えています。
画面の中には最初から最後まで哀愁が漂っていて、静かに海を見つめる彼女の表情が印象的でした。
遊んだり楽しんだりするレジャー的な海ではなく、一人寂しく佇みながら見つめる海。
今回はそんな寂しさを宿した海について考えてみました。
目次
海が見たい心理
忙しない毎日にすり減り疲れ果てていると、
地位やお金と引き換えに大切な何かを失ったような気分になります。
そして、そんな時は唐突に海を見たくなります。
なんて話は恥ずかしいくらいにベタな衝動です。
とはいえ、そうすることで何かが吹っ切れたり気分を一新できるのも事実。
海を見たい衝動は単なるおセンチ芝居ではないのです。
それでは人はなぜ海を見たいと思うのでしょうか?
日常に疲れているから
同じような毎日を繰り返していると急に虚無感に襲われることがあります。
人間関係や仕事(勉強)に大きな問題があるわけではないのに、なぜか焦りを感じたり怖くなったりする。
自分も周囲の人も皆幸せそうにしているのに、なぜだか涙が出てくる時がある。
そんな時、とにかく海を見たいと思います。
落ち込んでいる、傷ついているから
うだつの上がらない人生、
先の見えない人生、
何をやっても上手くいかない人生、
精神的に余裕がなくなり切羽詰まっていると、
全てを投げ出して海に行きたくなります。
どこまでも広がるスケールの大きさ、
地平線の向こうに見える「ここじゃないどこか」への憧れ、
喧騒から離れた静けさと孤独感。
海は弱った気持ちを甘やかしてくれます。
退屈だから
休みですることもなく暇だから、
夜中に目覚めてしまった or 眠れない夜、
なんともなしに車(自転車)を走らせて海に着いてしまうのは珍しいことではありません。
こうした目的の無い海は時間を持て余している時期にしか見ることができません。
もっと限定的なシチュエーションとしては、
取りたての免許で友達と海を見に行ったり、
自転車をどこまでも走らせて辿り着いた果てが海だったり、
最高に贅沢で無駄な時間の使い方で見た海の記憶は、
何年か後、あくせくした人生に疲れ果てた時にキラキラした記憶となって、
激しい「海見たい衝動」を生み出します。
青春ごっこ、カッコつけ(ドラマや映画の影響)
青春と言えば海、孤独を気取るには海。
「海を見ている自分(自分たち)」を演出したくて海に行く行為。
なぜそこで海という選択肢が出てくるかと言うと、
ドラマや映画などで海が孤独や青春、センチメンタルの象徴として描かれることが多いからです。
次の項ではいくつか例を挙げていきます。
一人で海を見に行く
波止場のつっかえ棒みたいな部分に足をかけるアウトロー。
港でタバコをふかしながら黄昏れる無頼漢。
海岸で沈む夕日を見つめる学生グループ。
波打ち際でふざけ合うカップル。
ぱっと挙げただけでも海シチュエーションあるあるはたくさん出てきます。
ここまで書いて言うのもあれですが、僕は海に行きたい衝動を感じることはそれほど無く、
疲れた時や病んでいる時は山や森に行きたくなるタイプです。
しかし冒頭で挙げた「道」然り、海のシーンが印象に残っている作品はいくつかあります。
ピコピコ少年EX(漫画)
押切蓮介の作品。
直近にあった騒動(wiki参照)と漫画家としての苦悩。
うっすら見えてくる老いと、ぼんやりした将来への不安。
他シリーズに比べてこういった心境がもろに表れている作品で、
最後に収録されている「-海へ-」は青々しく恥ずかしいくらいに作者の心境を吐露した内容になっています。
印象に残ったセリフはこちら↓
「青くなくていいから海を見せてくれ……‼」
そして巻末の作者コメントがまた秀逸。
「大人になった自分の現状は満たされているように思っていましたが、
学生時代となんら変わっていないのです。
これからも悩み苦しんだりするのです」
海辺の叙景(漫画)
つげ義春さんの短編。
海で出会った男女の物語になっていますが難解です。
特に印象的なのはラストの見開きですが、
「いい感じよ」というセリフに反して、暗い海で一人で泳ぐ姿はちっともいい感じに見えず不気味な余韻が残ります。
物語の意味やメッセージ性を求めるよりは、節々に漂う孤独の影とアンニュイで暗い青春の雰囲気を楽しみました。
「さらば青春の光」(映画)
1979年に発表されたイギリス映画。
60年代の若者文化であるモッズカルチャーのリバイバルで作られています。
この映画に出てくる海は冒頭とラスト。
寂しそうに黄昏る主人公・ジミーの姿が映されます。
全てを失ったジミーが失意と絶望に打ちひしがれる姿は、まさに青春時代の終焉。
この感傷は国や時代に関係なく誰もが理解できる寂しさです。
2chのレス
もし仕事に行きたくなくなったら、そのまま反対の電車に乗って、
海を見に行くといいよ。海辺の酒屋でビールとピーナツ買って、海岸に座って
陽に当たりながら飲むといいよ。ビールが無くなったら、そのまま仰向けに寝ころんで、
流れる雲をずっと眺めるといいよ。そんな穏やかな時間がキミを待ってるのに、何も無理して
仕事になんか行く必要ないよ。
こちらは2chで定期的に貼られる有名なコピペ。
社畜やブラック企業に苦しんでいる人に向けられることが多いですね。
「山手線だから」、「反対方向の電車は海に着かない」、「港に勤務している人はどうすんの」
といった野次も飛びますが、会社と反対側の電車に乗ってぼんやりと海を眺めたいのは、誰でも一度は考えるシチュエーション。
かくいう僕もこのコピペと同じように、会社員時代はいつも反対側の電車に乗りたいと思っていました。
海を見に行きたい。
その心理にはやはり現状への不満や将来への不安があると思います。
そんなシチュエーションの作品を見すぎて、逆に海に行こうと思えない人もいるでしょう。
しかし、そんなことも忘れた頃に突然「海を見に行きたい」と思うことがあるかもしれません。
そんな時は迷わず海に行きましょう。
何も変わらないと思うけど、何かが変わるかもしれないので。
コメントを残す